ヴォーカルジャムセッションにおいてヴォーカリストが必要なスキル「4+ α 」 +α「フェイク スキャット アレンジ等を駆使して演奏を膨らますことができる。正しい状況判断によって演奏を仕切ることができる」について

(演奏を)脹らませる

個人的な意見ですが、ジャズヴォーカルの演奏で度々見受けられる、◎ヴォーカル(前テーマ)⇒ ピアノソロ ⇒ ベースソロ ⇒ ピアノとドラムの4バース ⇒ ヴォーカル(後テーマ)の形式が、あまり好きではありません。正直、演奏者も、「あ、次俺?」みたいな感じで、まるでカラオケの順番待ちのような気分になっていると思います。私としてはヴォーカルが、テーマの後フェイクコーラスやスキャット等を行い、演奏を盛り上げて「こんだけ盛り上げたんだから。後よろしくね!」的な気持ちで次の演奏者に渡すのが音楽的な行為だと考えています。

例えば伴奏がピアノトリオの場合

1コーラス  ヴォーカル 前テーマ

2コーラス  ヴォーカル フェイク(又はスキャット)  

3コーラス  ピアノソロ

4コーラス  ベースソロ

5コーラス  スキャットとドラムソロによる4バース

6コーラス  ヴォーカル 後テーマ

このように演奏することによって、演奏の半分以上の時間をヴォーカルが演奏していることになり、それはまた演奏をしっかりと支配(演奏の中心)していることにもなります。上の下線部の構成とは音楽が大きく変わってくることが想像できると思います。

フェイク

近所で行われていた野外フェスティバルでジャズヴォーカルの演奏を聴いていた時の話です。演奏されていた方は知らない方だったのですが、とても良い演奏をされていました。「マジですか?」と思うほどフェイクのメロディーラインも良い演奏でした。と、同時におかしなことも起こっていました。それは、こんなに良い演奏をしているのにも関わらず演奏者がみんなクール(いや、淡々と、、、かな)なのです。あれだけ良い演奏をしていたら少しは顔に笑みがこぼれてもよさそうなものなのですが・・・ (ここからは私の憶測になります)その理由として考えられうのは、そのグループは一緒に演奏されることも多く、その曲も今までに何度も演奏してきて、その美しいフェイクのメロディラインも何度も聞いてきたのかな?そう考えると演奏者の淡々とした表情にも納得できます。

フェイクの言葉の定義は、いろいろあるようですが、おそらく上のケースも一般的にフェイクと表現されると思います。ようするに事前にオリジナルメロディーとは別のメロディラインを用意しておくわけです。私はこれを、よくないと考えています。この状況をたとえて言うならインストのアドリブで最初から演奏が決まっている(アドリブが決まっていたらアドリブではない!)ようなものだと思っています。多くの楽器奏者は、どんなに下手くそでも、最初から自分のアドリブを演奏します。ヴォーカルだって、それで良いじゃないですか、、、ヴォーカルのみなさんもやってみませんか?即興演奏でのフェイク。

ちなみに私のフェイクの定義は
「オリジナルのメロディーラインでは表現しきれない気持ちを(フェイクメロディーに)乗せたもの」です。

ちなみに、その2)楽器の人間はアドリブをガンガン演奏するので、テーマはわりと普通に演奏することが多いです。(歌詞(言葉)がないので、あまりにも崩してしまうと何の曲だか分からなくなってしまう)ですので、本当にセンスの良いフェイクラインを聴くと、自分がそんな演奏が出来ないので単純に「お~スゲー」と思ったりします。

スキャット

これも単純に私の好み(お勧め)を言わせてください!
スキャットには2種類あると思います。一つ目は「聞かせるスキャット」これは楽器と同じように1コーラスまるまるスキャットを行うパターン。二つ目は、主に4バースなどで使うスキャット。これは主にドラムとのやり取りが多いと思いますが、これはどちらかと言えば、スキャットは(その瞬間の)演奏のメインではなく、「ドラムソロを引き出すための手段」とも考えられます。

お勧めは、この二つ目の方です。中でも4バースはスキャットは4小節ごとですから、まあ、頑張れば1フレーズ、ないし2フレーズ。転調の激しい曲を選ばないように気をつけて、よく周りの音を聞きながら調性の音階にリズムをつけてスキャットすることは「意外と何とかなるものだ」と経験上感じています。大事なのは、あくまでもこれは「ドラムソロを引き出すための手段」と割り切ってしまうことです。それと「自転車を転ばないで乗れるようになりたい!」というのは無理な話なのと一緒で、ある程度は失敗をして恥ずかしい思いをしてしまうのは、しょうがないことと考えてください。ぜひスキャット試してみてください!絶対に楽しいと思いますよ。

「踊るアホーに、見るアホ―。同じアホなら踊らな損々。ドゥ~ワ~」

アレンジ

ここで言うアレンジはリズムについてです。(厳密にはコードを変えたりするのもアレンジですがセッション的に演奏するのは難しいので省きます)

アレンジで分かりやすい(受けが良い)のは元曲とは真逆のリズムで演奏することです。

元がテンポが遅い曲なら速く、速い曲なら遅くです。

ジャズでスタンダードチューンとして演奏されている曲の中には、もともとは遅い曲だったのに、なぜだが理由は分からないけどジャズでは早く演奏するのが一般的なイメージという曲が幾つかあります。これは一番最初は、元曲と真逆のイメージで演奏していたのに、いつのまにか(いろいろな人がそのアレンジで演奏しているうちに)そちらがジャズの中では定番のイメージになってしまった。ということだと思います。

ぜひ 「次の定番アレンジ」を目指して、いろいろと試してみましょう!

アレンジとして元曲のイメージとは真逆のリズムを使うというのを説明しましたが、もう一つのアレンジ方法として、微妙な差を表現するというのもあります。

Annie Lennox – Georgia On My Mind (Live)

この演奏をお聞きください。彼女はローリング・ストーンの選ぶ歴史上最も偉大な100人のシンガーにおいて第93位だそうです(恥ずかしながら私は彼女のことを知りませんでした)ジャズの一般的なこの曲のイメージとは大きく違います。彼女の場合は、おそらくこれを作りこんだアレンジとして演奏していると思います。これを「ジョージア、4分打ちで演奏してみない?」的なノリで即興的にセッションでやってみると面白いと思います。もちろん、その時に「伴奏が変わるだけで歌はあまり変わらない」というのは、あまりよろしくないので、フェイクをガンガン使って、その変えたリズムによる新しいイメージに添えるようなフレーズが出して演奏者を引っ張りできたら最高に楽しいと思いますし、それがジャズの醍醐味だと思います。ぜひ試してみてください!

正しい状況判断の習得法

イントロの数、ソロのまわし方、後テーマの戻る場所、曲の終わらせ方(エンディング)等、ジャムセッションにおいて、これら構成について、必ずしも曲ごとに決まっているわけではありません。その曲の構成(形式)や、その時に演奏する形態(トリオなのか、カルテットなのか、はたまたデュオなのか?)によって、またそのジャムセッションの主催者(会)の意向(そのグループが大事にしていることは何なのか?)によって大きく変わってきます。演奏の途中でも自分の描いていた青写真通り進まないこともよくあります。(例えば後でドラムとスキャットで4バースを行おうと考えていたのに、ベースが自分のソロを飛ばしてドラムのコーラスソロに回してしまった…など)いろいろな条件や音楽の流れ等をトータル的に考え適切な判断が出来るようになるには、それなりの知識や経験が必要になりますので、一つ一つそれらを積み重ねていってください。

また他の人が演奏している時も、自分が演奏している時と同じように「自分だったら、こういう判断をする」など想像しながら聞いてみてください。もしその想像と実際の演奏が違った場合は、「なぜ違ったのか?」(自分の想像と実際の演奏が違っても、全く問題ない場合と、問題がある場合両方あります)間違っててもいいので、とりあえず一度自分なりの答えを出してみてください。その後もし可能でしたら、その場にいるセッションに慣れた人に確認してみてください。(人に聞く前に一度自分なりに答えを出すことは、とても大事です!)その一つ一つの体験のみが、セッションに対するノウハウの習得法だと思います。